2023年末、再び北京の地を踏む
「蟹をお忘れですよ!」
という凡そ今後の人生で二度と聞くことがないアナウンスと共に到着した北京空港。
ようやく北京の地を再び踏むことが出来、感極まる中でターミナルバスに乗り込んだが、これが長い。
とにかく長い。
おそらく、今までのフライトで一番長く、30分は走っていたかと思う。
どんな遠くに止めたんだよ。。。
空港の匂いはその国を表していると思う。
やはり羽田には日本を思わせるあの独特の控え目すぎるほのかな香りがあるし、中国にも目を閉じてても一発でそれと分かる匂いがある。
そして、私は国ごとの空港の匂いが結構好きだ。
思いっきり息を吸い込む。
そう、ここはいつもの、そして、いつも通りの北京だ。
21:40に着陸したものの、到着ゲートを潜った時には既に22:30近くであった。
寝る間は惜しい。羊肉串を探しに行こう。
朝早起きして1日中移動の連続で動き回ったんだ。
賢明な者はここでしっかり休息を取って明日以降に備えるのだろう。
深謀遠慮ある実に適切な判断だ。
しかし、残念なことに私は賢明ではないので勿論ここから街に繰り出す。
この興奮、ワクワク感を落ち着かせるべきではない。
やりたいことをやり、欲望のまま自由気ままに動いていくのが好きな旅のスタイルなのだ。
空港から空港快速電車に乗り、北京市街地に着いたのが23:00、こんな時間にもこの街は煌々としている。
どんなに夜遅くても散策したり、食べ物を探すのには全く困らない。
そんな活気みなぎる北京の夜はそのまま朝まで続くのだ。
過去、シンガポールで感じたような活気がここにもある。
経済が多少減速したとは言え、世界の「パーティー会場」は未だ中国にあることを思わせる。
閑話休題
さて、食事だ。
そこは食の百科事典、中国である。やはり、旅の最初は食から始めるできだろう。
その豊富すぎる中国の料理の中で何を一番最初に食べたいか。
これが実は結構悩ましい。
中国料理は種類が豊富すぎる上にどれもとても美味しいからだ。
その中でこの旅の始まりを飾るにふさわしい最初の一品を選ばなければいけない。
・・・・・・
北京の氷点下2度の寒空の下、心は決まった。
羊肉串を食べに行こう。
很久以前羊肉串(hen jiu yi qian yang rou chuan/はるか昔のシシケバブ)
美味しい料理は常に忘れえぬ記憶と共にあるものだ。
8歳当時、日本から中国に渡り、食べ、子供ながらにハンマーで殴られたかのような衝撃を受けたのがこの羊肉串ことシシケバブである。
90年代前半の中国、お世辞にも綺麗とは言えない飲食環境の中で無造作に焼かれた各種スパイスと交じり合う香ばしいそれは暴力的なまでに美味しく、鮮烈な印象を記憶に刻み付けたものである。
炭火で焼かれた肉は無条件で美味しい。そこに異文化のスパイスを更に纏わせとならば美味しさと気分は天元突破するのだ。
人を突き動かすのは理論ではなく、衝動だ。
説明不要の直球な美味しさがここにはある。
そんな人生を通して思い出の逸品である羊肉串なのだが、北京でどの店が今一番おいしく、ホットかというと、私は迷わずこの店を挙げる。
很久以前羊肉串
実はこのお店、2019年にも一度訪れ、お店の佇まいと串の美味しさに驚いたのだが、現地情報によるとその後も着実に客の支持を集めながら店舗を拡大していて、北京で最も美味しい羊肉串の称号を欲しいままにしているとのこと。
すごいぞ!很久以前羊肉串!
自分の推しが大出世したような喜びを感じる。
テーマレストランを思わせる店内はとても清潔だ。
お客が何故頭に冷ピタを貼っているかというと、炭火に照らされて熱いからひんやりして貰う為にお店が配っているそうな。
日本では見れない光景でとても面白い。
こういうアイデア勝負で意味不明なことでも臆することなくどんどんやってしまうあたりが中国の良さであると感じて、勢いがあるのだ。
人生は臆病になっている間にどんどん過ぎてしまう。楽しんだもの勝ちである。
席に着けば、これも面白いアイテムである。
その名も草原の草である。
青々とした草を触らせることで大草原の雰囲気を感じてもらおうという仕掛けだ。素晴らしいユーザー体験だ。
帰り際にプレゼントされたが、植物である為、日本に持ち帰ってはいけない。
羊の肉質はとても良い。変な臭みも全くない。
大草原で放牧された羊、恐るべし!
過去の中国では見た目だけで中身が伴っていないハリボテ感満載の飲食店も多数あったが、今や中国のお客も成長していて、そんなお店は生き残れない。
今、大众点评(da zhong dian ping/中国版食べログ)や小紅書等でトップランカーになっているお店はやはりクオリティーがとても高いお店なのだ。
炭火が運ばれ、席まわりが暖かくなる。
遠赤外線効果もバッチリだ!
説明不要の圧巻の光景である。これで食欲がそそられない人はいるのだろう。
かぼちゃもホクホクに焼けていてとても美味しい。
謎の便利器具登場。
これは串から肉を外す時に使うアイテムらしい。
お客がストレス無く最高の羊肉串体験が出来るよう徹底的に考えられているのを感じる。
素晴らしいホスピタリティである。
どんどん串を追加していく。
生ビールと共に、もう止まらない。
時刻は0時を回っている。
止まらない北京の夜。
最高だ。
久しぶりに来ることができたが、很久以前羊肉串はやはり最高だった。
北京に来るたびに寄りたいと思わせるお店だ。
串約50本、散々飲んで食べて二人で8000円である。
日本では絶対不可能だ。
食に関しては中国のコスパは良すぎる。
お腹も膨れ、ゆっくり歩きながら今日の宿を目指していく。
こういうなんでもない路地裏の感じは昔と少しも変わることがなく、懐かしさを感じる。
大満足で初日を終える。
ここから北京の今を知る旅の始まりである。