4月に新しく買った車が二台同時に納車された。
齢四十にして、気が付いたら車二台持ちになった話である。
もともと「二台持ってやろう」とか、「車道楽を極めてやろう」とかは全く考えておらず、どちらかというと車には道具としてコスパを求めるタイプであったが、運命とは不思議なものであれよあれよと気が付いたら二台注文していたのである。
そんな与太話である。
最高の普通の車、スバルXV
先代はスバルXV、2リッターガソリンエンジン、アイサイト付きである。
この車に7年間乗り続けた訳だが、一言で表すなら「最高の普通の車」ということだ。

何の変哲もない普通の2リッターガソリンエンジン
何の変哲もない普通のドライブフィール
何の変哲もないインプレッサライクなエクステリア
何の変哲もないブラックを基調とした普通のインテリア
全てが普通で、普通のいつもの日常に自然に馴染んで、溶け込む車。
それでいて
ちょっとだけ、ハンドリングがリニアでスポーティーだったり
ちょっとだけ、車高が高く、場所を選ばずいろんなところに行けたり
ちょっとだけ、アイサイトの半自動運転で長距離ドライブが楽だったり
ちょっとだけ、インテリアのピアノブラックが上質さを醸し出していたり
普通に少しだけ、「良さ」がほんのり追加されたそんな車だった。
街に山、海、都内へのドライブからキャンプまで
どんなシーンでも普通に使えて、どんな場所へでも普通に行けた。
何も迷うことはなく、いつでもどこでも普通に使える。そんな使い勝手の良い最高のツールとしての車だった。
この車の手頃な値段を考えると本当に信じられないほどのコスパである。
改めて7年間、この素晴らしい車に心から感謝したい。
レヴォーグを試乗して、SL型フォレスターを予約する
レヴォーグに試乗しようとスバルを訪れたらフォレスターを契約していた。
先代XVは最高に使いやすい車だったが、長く乗っているとやはりいろんなところがくたびれてきて、通常の洗車でも落ちない汚れであったり、窓ガラスのちょっとした飛び石痕だったり、走行距離も7万キロを超えるところとなり、買い替えを意識するようになった。
車の買い替えは値段的にも労力的にも結構パワーがいる作業で、ぼんやりと「買い替えたいなー」と考えてから半年も重い腰が上がらず、いろいろ考えた末、漸く実車を見に行こうとなったのはスバルのレヴォーグだった。

レヴォーグはとても良い車に思えた。
XVはファミリーカーであり、パワーは無かったものの、スポーティーなハンドリングはとても気に入っていて、レヴォーグでは更に不足していたパワーを補い、スポーティーさを正常進化させた物のように感じた。

加えてトランク容量もサブトランクを入れて561LとXVの385Lより大幅に容量が増えるところもポイントが高かった。
XV以上のスポーツ走行も楽しめて、XVと同等またはそれ以上に荷物も載ってどこにでも行けるような車。
これはXVの次代を考えれば最高の車なのではと期待が膨らみ、気が付いたら東京スバルの試乗車を予約していたのである。
ちなみにスバル肝入りのスポーツカーであるWRX S4も検討の遡上に上がったが、同乗家族の居住性、トランクの使いやすさ等を天秤にかけて泣く泣く没にした。
レヴォーグはどんな運動性能を発揮してくれるのだろうか、トランクの広さは実際どうなんだろうかとワクワクしながら試乗車に乗り込んだ結果、ディーラーを出る頃には何故かフォレスターを契約していたのである。
車との相性は触ってみれば意外とすぐ分かるもので、レヴォーグはそのエクステリアからしてスポーティーでかっこいい車ではあったのだが、試乗して自分に合わないのが時間が掛からず分かった。
個人の合う合わないで言えば、気になった点として、①運転席がXVよりも狭く感じたこと(これはスポーティーさを追求すれば当然ともいえるが)、②トランクがスペック程にはXVとの違いが感じられなかったこと、③有り余るパワーも試乗では体感できず、むしろ「そのパワーどこで使うの?」となんとなく我に返ってしまったことが挙げられる。
試乗車から降りた時には「かっこいいけど、なんか違うな」という気持ちになっていた。
そしてその東京スバルには商談ルームの真ん中に新型のSL型フォレスターがデカデカと鎮座していた。
「これにも乗ってみます?スバルの自信作で出来が本当にいいんですよ」
そう営業マンは嘯いた。
SUVはなんとなくミニバンみたいでファミリカーに寄りすぎている感じがして敬遠していたが
試乗から契約までは早かった。
車を買い替えるというのは自分の次の5年、10年のライフスタイルの骨組みを確定させる行為であるように思う。
家族を乗せてどんなところにでも行けて楽しく過ごせそう。そして、乗り心地もしっとり上質で運転していてもそれなりに快適で楽しめる車。
最終的に選ばれたのフォレスターだったのだ。
家族の未来を乗せるのに最高な車フォレスター
営業マンの言葉に嘘は無く、後にカーオブザイヤーに選ばれることになるフォレスターは完成度が極めて高い自分にとって最高の車であった。
先ずはこのスマートさとは対極にあるような重厚なインテリアである。
どこかキャデラックのようなアメ車の雰囲気を感じさせる。
現代車にありがちなどこかテック感を感じさせるスマートさと正面勝負を挑むようなスタイルである。
フロントグリルのゴチャゴチャした感じや、張り出したフェンダーのマッチョさとかが最高である。
見るからに鈍重な鋼鉄の塊。重い車重を鼻息荒く走らせるそんな獣を感じさせる。


試乗してすぐに気づいたのはガラス面積の広さであり、スバルの「0次安全」という設計思想とのこと。
0次安全事故に遭わないための
基本設計そもそも事故を起こしにくいクルマを目指して、周囲の見やすさ、操作のしやすさ、着座時の疲れにくさなどの運転環境を大切にしています。
視界が広く、小さな子どもも良く見える独自の視界設計
三角窓や窓の支柱を細くするなどの工夫により、優れた視界性能を実現しました。小さなお子様なども見えやすく、さまざまなシーンで安心して運転できます。
―スバル公式サイトより

死角も良く見えて安全な上に周囲の景色も良く見えるから、観光地で周囲の景色を見渡したり、キャンプ地への道で自然を感じたいようなシーンには最高なのである。
これはもはや家族を乗せる快適な貸し切り観光バスである。
今回契約したのはPremium S:HEV EXであり、内装はブラウンのナッパレザーである。
内装の質感はかなり良く、これにより貸し切り観光バスが高級な貸し切り観光バスに進化する。
スバル車に内装の高級感のイメージは正直まったく無かったが、これは嬉しい驚きである。

一方、テクノロジー面で言うと、新型フォレスターには進化したアイサイトXが搭載されている。
XVにもアイサイトがついていたが、この新しいアイサイトXはレーンキープをより強力にしてくれたり、渋滞時に手放し運転が出来たりと大変便利な代物で、慣らし運転も兼ねて東京―別府間の長距離ドライブを慣行したが、疲労感はそれほどでもなかった。
たぶんXVでは厳しかった。でもアイサイトXがあるフォレスターだから出来た。
内外装も素晴らしく、テクノロジー面でも最先端。
3000km程運転して思うのは、フォレスターは家族を乗せて走る最高の車である。

スポーツカーへの夢
レヴォーグを試乗しようとして結果フォレスターを契約した2025年の夏。
フォレスター推しの営業マンの口調は話題が納期に移った瞬間、途端に弱弱しくなった。
「大変ご好評いただいており、納期は最短で9か月ほどになります」
9か月なんていろいろやってればすぐじゃんとその時は深く考えずに契約したが、9か月はぜんぜんすぐじゃ無かった。
そこから長く、フォレスター納車を待つ日々が始まった。
待てど暮らせど、フォレスターは来ない。
9か月は長めに言っていて、実は半年くらいで納車されるのではと高を括っていたが、きっちり真面目に9か月待たされた。
その間、XVは元気に走り続けてくれた訳だが、空き時間に車について調べてるうちにある考えがまた戻ってきたのである。
「そもそもレヴォーグを試乗しに行ったんだっけ」
何故、レヴォーグを試乗したかったかというと、スポーツカーに乗りたかったからだ。
男の子はスポーツカーが好きだ。例外はない。
「荷物も載るスポーティーなツーリングワゴンだね」等と家族がいる手前、お茶を濁しているが
要はスポーツカーに乗りたくて、でも折り合いをつける為にバランスを取ったのがレヴォーグを試乗するという思考パターンである。
ならば、お茶を濁すことなく、バランスを取ることなく、100%自己中心的に考えて自分が本当に乗りたいスポーツカーはどんなものだろうか。
それは真っ赤な、見るからに速そうな、全然落ち着いていない、何かやらかしそうなスポーツカーである。それがオープンカーであるならなおのことよい

そこからフォレスターの納期が長すぎた故に身も蓋もない勝手気ままな思考実験が始まった。
「そもそも1台に全部収めようとするから悪いのであって、用途別に分けるなら何も不都合はないのでは」
「否、不都合はある。主にお財布についてだ」
「そもそも人生は多少自分勝手になる瞬間があってもよいのでは、スポーツカーを買っても人生は破滅しない」
「否、新車でフォレスターを契約しつつ、納車も未だなのに追加でオープンカーを買うのは狂気の沙汰」
「それでも赤いオープンカーはかっこいい」
「そこは否定しようのないこの世の真理である」

新社会人になった時、給料の全てをつぎ込んで、オープンカーを買った。
トヨタのMR-Sという車だった。
当時精一杯の背伸びとして手に入れたこの相棒はエンジンは非力であったが、ミッドシップでスポーツカーらしく良く走ったし、どこに行っても大変良くモテた。
人は若い頃を共にした車というものを良く覚えているものだ。
オープンカーの夢は捨てきれない。
だが、時は2026年。
気付けばこのただカッコ良くてあまり実用性が無く、売れもしないオープンカーというジャンルを作るメーカーがそもそも減っていて、新車だとポルシェ718ボクスターかマツダロードスターくらい。
中古で探してもやはり往年のMR-Sかロードスターかそのくらい。
最初は想い出のMR-Sにもう一度乗ることも考えたが、さすがに古すぎて機関類や安全性能含めていろいろ心配が絶えない。想い出はやはり美しい想い出のまましまっておくことした。
ポルシェはなんとなく気負わずに乗るには「まだ早い」と感じる。
マツダのロードスターは人馬一体で素晴らしいがエクステリアが若干大人しすぎて、もう一歩何か足りない。
何か個性というか「毒」のようなものが。
毒サソリ、アバルト124スパイダー
そうこうしているうちにそんなサソリの毒にやられて、我が家にはフォレスターが来る前にアバルトが納車されてしまった次第である。
試乗から契約までの時間はフォレスター以上に早かった。
何故こんなことになってしまったのか。
イタリア車なんてものはフェラーリかその係累で、かっこいいだけでとにかく良く壊れて(個人のイメージです)、人生を通して絶対に乗ることはない!イタ車なぞに乗った日には身の破滅、修理代で貯金は消し飛び、毎日車庫で動かない車を眺めるか、必死に車の機嫌を取り「今日こそは動きますように」と祈る奴隷のような日々しか残されないのだ!
と考えていたので、人生とは分からないものである。
なぜ今家にイタ車があるのか、今でも分からず夢うつつである。

アバルト124スパイダーはマツダと共同開発したロードスターをベースとしてアバルトのエンジンを積んだスポーツカーである。
日本での登録車数は全国で2200台程度で希少車でもある。
広島工場で作られていたらしい。日本で生まれたイタリア娘といったところ。
早速このイタリアっ子に「マリア」という名前を勝手につけてみた。
マリアは贅沢が大好きなので、食事は勿論プレミアムガソリンである。レギュラーなんて入れた日には怒りでエンジンが起動しなくなるだろう。
この物価高のご時世、涙を流しながらハイオク満タンを入れる。
最低でも週に1回はエンジンに火を入れること、スポーツカーとしてのプロポーションを保つためにピカピカに拭き上げること、ディーラーからはそんなマリアとの生活上の注意点を賜った。

乗ればしっかりスポーツカーである。スポーツカーで思い浮かぶ文脈は全てこの車に入っている。
ステアリングの毒サソリが誇らしげに煌めき、三眼の中央タコメーターは真っ赤でやる気を上げてくれる。
4速3500回転できっちり120km、5速と6速はいつ使うのだろうか。
スピードメーターは270kmまで刻まれている。
エンジン容量は1.4リッターしかない癖に日本の公道では完全にオーバースペックでポテンシャルを気持ちよく全開させるにはサーキットにでも行くしかない。

インテリアはブラックの本革とアルカンターラでクラシカルな直球なスポーツカー表現である。
まわりくどいことはせず、スポーツカーかくあるべしをそのままぶつけてくる感じが気持ちいい。

アバルト124はどこに行ってもとにかくよくモテる。
ドライバーそっちのけで車はモテモテである。
ROSSO COSTAの真っ赤なイタリアンレッドに加えてレコルドモンツァのあまり大人しくはないマフラー音もあってMR-S以上に注目の的である。
これで運転が下手なら目も当てられないので運転席に乗り込む度に身が引き締まる思いである。
バック駐車なぞは必ず一発で決めなければいけない緊張感がある。

全体のスタイリングからインテリア、エンブレムの形に至るまで全てが完璧にかっこいい。
それは一つの形として完成されていて、唯一無二の個性を醸し出している。
124とは別にかっこいい車は他にもあるだろうが、それは別の車で、124のカッコよさは124にしか出せない。
124に似ている車は無いし、似せたところで124と同じような雰囲気は出せないだろう。
そんな特別な車である。
この美しい車を動く状態で乗れることに感謝し、大事に乗っていきたいと思う。

気が付いたら車二台持ちに
そんな訳でフォレスターの納車が長すぎてその間にアバルト124を契約してしまい、我が家の駐車場には今2台の車が鎮座している。
それぞれ全く別のキャラクターだが、それぞれ最高に素晴らしく、美しい車だ。
車を用途別に二台に分けたことでそれぞれのジャンルに対して我慢することはなくなった。
満足度はかなり高い。財布事情を除けば。
人生楽しいことも苦しいこともたくさんあったが、こんな最高の2台に囲まれて生活できる人生はやはり最高の人生という他ない。
これからこの車たちとどんな道を走って、どんな場所に行くのか、そこにどんな物語が待っているのか今後の5年10年がとても楽しみである。
あとは3台目が来ないように自制心を保つばかりか。
